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​遺産分割・特別受益・寄与分

1 遺産分割 

(1)遺産分割とは 

 遺産分割とは,共同相続人の遺産共有状態にある被相続人の相続財産について個々の財産の承継者を確定させる手続です。

 遺言書がない場合には遺産分割協議を行い,遺言書がある場合でも,遺言書の対象とされていない財産がある場合や,相続人全員の合意がある場合などには遺産分割協議を行うこととなります。

 遺産分割は協議で行うことができますが,協議がまとまらない場合には,遺産分割調停,遺産分割審判という裁判所を利用する手続もあります。また,遺産分割手続に関連する問題の中には,遺産分割調停・審判とは別に訴訟などを提起して解決しなければならないものもあります。

 遺産分割調停は,家庭裁判所を利用して,調停委員を交えて話合いをする手続です。調停委員が当事者から事情を聞いたり,当事者から資料が提出されたりします。遺産分割調停は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所に管轄があります。

 

 遺産分割審判は,相続人間の様々な事情を総合的に考慮して,裁判官が遺産分割方法を定める手続です。

 以下では,遺産分割手続の概要についてご説明します。

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(2)遺産分割の手続 

 遺産分割の進め方としては,①相続人の範囲の確定遺産の範囲の確定遺産の評価の確定具体的相続分の確定遺産分割方法の決定があります。合意が成立した場合には遺産分割協議書を作成します。

 ①相続人の範囲の確定については,被相続人の戸籍を取り寄せるなどして相続人の調査をすることができます。

 相続人の中に認知症などの精神上の障害により判断能力が低下している方がいる場合などには,後見開始の審判の申立てなどの手続が必要になる場合があります。

 ②遺産の範囲については,被相続人の一身に専属したものや祭祀に関する権利などを除き,相続開始時に被相続人の財産に属した一切の権利義務が相続の対象になります。

 どの様な遺産が存在するのかについては,被相続人の自宅を調査するほか,預貯金でしたら金融機関に資料(取引明細や残高証明)の開示を求め,不動産でしたら登記簿や固定資産評価証明書を取り寄せるなど,遺産ごとに各種資料を入手して調査することができます。

 遺産の評価については,遺産の評価に関する事項について協議して合意することが可能ですが,合意がされない場合には鑑定をすることがあり,鑑定費用を負担しなければならなくなる場合があります。

 ④具体的相続分については,相続分は遺言により定めることができますが,遺言がない場合には,基本的には民法に規定された相続分(法定相続分)に従うことになります。ただし,特別受益寄与分などによる修正がなされる場合があります。

 ⑤遺産分割の具体的方法については,(1)現物分割(遺産を現物で分割する分割方法です。),(2)代償分割(特定の相続人が遺産を取得し,他の相続人に対し代償金を支払う分割方法です。),(3)換価分割(遺産を売却して金銭を分配する分割方法です。),(4)共有分割(遺産を具体的相続分による共有とする分割方法です。)の4種類があります。

 

 当事者が合意すればどの分割方法も選択することができますが,遺産分割の性質上,現物をそのままの姿で相続させることが望ましいと考えられますので,遺産を現物で分割する現物分割が遺産分割の原則的方法とされています。

(3)おわりに 

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 以上のとおり,遺産分割事件は争点が多岐にわたる場合があり,また,身内同士の紛争であるがゆえに対立が深刻化する傾向が認められますので,ぜひ法律の専門家である弁護士にご相談ください。

2 特別受益 

(1)特別受益とは 

 

 共同相続人の中に,被相続人から,遺贈を受け,または生計の資本などのために贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,法定相続分または指定相続分により算定した相続分の中からその遺贈または贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とします(民法903条1項)。

 

 これは,共同相続人の中に被相続人から遺贈を受けたり,生前に贈与を受けたりした者がいる場合に,相続に際してその点を考慮せずに相続分を決めることは不公平となりますので,特別受益として相続分の前渡しとみて相続分を修正するものです。

 

 特別受益を相続分算定の基礎に算入することを持戻しといいますが,被相続人は,意思表示によって持戻しの免除をすることができ(民法903条3項),この意思表示は黙示のものでもよいとされています。そもそも遺贈や生前贈与は,特定の相続人に取り分を与えようという被相続人の意思に基づいていますので,その意思を尊重するものです。

 改正相続法においては,婚姻期間が20年以上である配偶者の一方が他方に対し居住用不動産を遺贈または贈与した場合には持戻し免除の意思表示があったものと推定される旨の規定が設けられました(民法903条4項)。

(2)特別受益の対象財産 

 

 特別受益に当たるかが問題となる例としては,共同相続人の一人が受取人とされた生命保険があります。判例は,原則として特別受益に当たらないが,受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となるとしているようです。

3 寄与分 

(1)寄与分とは 

 

 共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とするとされています(904条の2)。

 

 寄与分制度は,被相続人の財産の形成に特別の貢献をした相続人がいる場合に,相続人間の公平を図るために認められました。

 

 「特別の寄与」とは,相続人と被相続人の身分関係から通常期待される範囲を超えた貢献を必要とするとされています。

 寄与分の具体的金額は相続人全員での協議によって決めますが、決まらない場合には、裁判所で調停審判の手続をすることになります。

 相続法の改正(1050条)により,相続人などを除く被相続人の親族のうち,被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者は,相続人に対し,寄与に応じた金銭の支払を請求することができるとされました(改正前に寄与分の主張をすることができたのは相続人のみでした。)。

(2)寄与行為の類型 

 

 寄与行為の類型としては,①家業従事型,②金銭出資型,③療養看護型,④扶養型,⑤財産管理型などがあるとされます。

 ①家業従事型は,被相続人が経営する農業,商工業などの事業に従事し,労務を提供したことで相続財産の維持・増加に寄与した場合です。

 

 ②金銭出資型は,被相続人が経営する農業,商工業などの事業に資金援助をしたり,経営に必要とする土地や建物などの財産を提供したりするなどして相続財産の維持・増加に寄与した場合です。

 

 ③療養看護型は,病気療養中の被相続人の療養看護を行うことで,被相続人に看護費用などの出費を免れさせ相続財産の維持・増加に寄与した場合です。

 

 ④扶養型は,相続人が被相続人の扶養を行い,被相続人に生活費などの出費を免れさせ相続財産の維持・増加に寄与した場合です。被相続人が扶養を要する状態にあったことが前提となります。

 

 ⑤財産管理型は,被相続人の財産を管理したり,財産の管理・維持費用を負担することにより,被相続人の相続財産の維持・増加に寄与した場合です。​例としては,被相続人が所有する不動産の賃貸管理をする場合などが挙げられます。

 

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